第32話 泣いていいんだよ

面会時間
ある日の夕方
泣いていいんだよ
琴線
退院日が決まる
ふりかえってみて

2月末、遅い夕方「もう誰も来ないから泣いても大丈夫だよ」とコノさんから声をかけられました。なぜコノさんはそう感じたのか聞き返す余裕もなく冷たく閉じていた心情が揺り動かされるのを感じました。

固く縛っていた糸がスルスルとほどけ、包んでいた氷が一気に溶けて目から溢れ出し声を上げてギャーギャー泣きました。この「琴線に触れる」という経験は生涯忘れる事ができない思い出の1つです。

泣きやむまでコノさんは温かい手で握ってくれました。

数年後、入退院を繰り返していたすみさんからナベさん、コノさんが亡くなったと知らせを受け、後に母からコノさんは再発したら助からないと宣告を受けていたのであの時、既に厳しい状況だったと聞きました。真の強さを持つ優しい人たちとの出会いは年齢の割に早く訪れた、多様な出会いから生きるモデルが作られていく出発点だったのかもしれません。

第31話 バレンタイン

バレンタイン
お客さんは
コロンあります
主治医(仮)
穏やかな時間
ふりかえってみて

立春の頃、お見舞いで頂いたバレンタイン用のチョコを放射線科のくどさん、しまさんに渡してもらうよう、せいさんに頼みました。(配膳や検査室まで連れて行ってくれる立場の方にどこまで頼めるのでしょうか?)

数日後、くどさんとしまさんが816号室に!驚きました!!

カップは20年ほど持っていましたが、欠けてしまい処分。
レモンの香りのオーデコロン。

女の子と認められたようで嬉しい気持ちと同時に「16歳ならまだコロンでいいんじゃない」と、言いながら資生堂を選ぶ所にコロンはとうに卒業し、濃度の高いオードトワレを使用している大人の女性、その横にしまさんという光景が瞬時に浮かびました。(完璧な妄想)

そのコロンはまだ棚の奥にあります。

35年も経ちフレッシュから熟成された香りに変化しているかもしれませんが、数年に1度、肝試しのように香りを確かめずにはいられません。

しまさんは「惚れ惚れと眺める存在」という人でした。連載にはきっと書くことはありませんが成人後まさかの主治医(仮)と再会し16歳の直感通りと確信。

ナベさん、コノさんとは少しだけ穏やかな時間を共有します。

第30話 ひとくんのこと

ひとくんのこと
そのまま
新 研修医
2010年頃 某日
新研修医の現在
ふりかえってみて

1987年春、両親は未知の治療に賭けていました。

なのでひとくんのお姉さんから電話があった時、咄嗟に娘に死を意識させたくない、ひとくんの死を知られる訳にいかない、それしか考えられない状況でした。

この頃、血液疾患で退院していく患者さんは次の治療まで自宅で過ごすという意味で本当の退院ではなく、挨拶を交わしていたのにいつの間にか退院、急に部屋が変わったという聞かされていた患者さんは、自分の身近な範囲では皆亡くなっていたと後々知ることになります。

2月になり、ひろ先生から新しい研修医に変わり後はマンガに描いてある通りこういった形で再び巡り合い、変わらず朗らかなうたえもん先生、(大森うたえもんという芸人似)待合室の温かい雰囲気から地域に愛されるクリニックだと感じました。

ー追記ー

振り返りを書き終えた今、ラジオから「ジェームス ディーンのように」とても懐かしい曲が流れて驚いている最中です。

ひとくんが憧れの俳優。ジェームスディーンのレターセットで手紙を書いていました。

第29話 夜の音

夜の音
2月
叫
移る
午後
ふりかえってみて

夜の小さな雑音が怖い。足音、カラカラと点滴棒を引く滑車の音、洗面所にある洗濯機の稼働音。

離れた所の音がどんどん迫ってくる感覚で布団を被り耳を塞ぎ動悸に耐える。

原因は、復学など少し先の事すら予測できない不安が夜になると現れると自己判断。

ある夜、いつものように頭から布団を被っていると、ひとくんの叫び声。

普段、他の部屋の患者の声が聞こえてくることはなく一気に騒々しくなり、人の行き交う足音、ガラガラとベッドかストレッチャー音が響き数分後には何もなかったように静かな向こう側。

翌日看護師さんからひとくんが転院したと聞き、手紙を書きます。いつからか夜の音は怖くなくなりました。