第32話 泣いていいんだよ

面会時間
ある日の夕方
泣いていいんだよ
琴線
退院日が決まる
ふりかえってみて

2月末、遅い夕方「もう誰も来ないから泣いても大丈夫だよ」とコノさんから声をかけられました。なぜコノさんはそう感じたのか聞き返す余裕もなく冷たく閉じていた心情が揺り動かされるのを感じました。

固く縛っていた糸がスルスルとほどけ、包んでいた氷が一気に溶けて目から溢れ出し声を上げてギャーギャー泣きました。この「琴線に触れる」という経験は生涯忘れる事ができない思い出の1つです。

泣きやむまでコノさんは温かい手で握ってくれました。

数年後、入退院を繰り返していたすみさんからナベさん、コノさんが亡くなったと知らせを受け、後に母からコノさんは再発したら助からないと宣告を受けていたのであの時、既に厳しい状況だったと聞きました。真の強さを持つ優しい人たちとの出会いは年齢の割に早く訪れた、多様な出会いから生きるモデルが作られていく出発点だったのかもしれません。